古文書を読む(増野家文書)

須佐浦十二景の歌

整理番号:1袋14

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 解 題

「増野家文書」としてはこれも異色の文書ですが「須佐浦十二景」という題が付けられた文書をご紹介しましょう。 7月ホームページ発足時にご紹介した「須佐・萩道中記」と同様に、須佐の地名が12出て来ます。 三味線に合わせて歌った歌詞らしく途中に「二上り」などと三味線の音調を上げる符号が入っています。

「佐江十二景」を選定したのは第29代益田就祥(なりよし、寛保3年1743〜文化元年1804)の事蹟と伝えられています。 江戸中期には一流の歌人や詩人が競って「佐江十二景」の歌を詠みました。皆川愿(淇園)、亀井魯(南冥)などの五言絶句が 「鶴崎晴嵐」、「玉嶋夕照」、「瑞林晩鐘」、「平島夜雨」、「蜑地帰帆」、「蟶潟秋月」、「大越落雁」、「笠松暮雪」、「中嶋泊舟」、 「雄嶋千鳥」、「松嶋白浪」、「亀嶋遊魚」など共通の題名で「注進案」に収められています(須佐町誌155頁参照)。

増野家文書の歌もこれら十二景のテーマを忠実に採り入れています。例えば鶴崎と言えば「晴嵐」ですから「海越えの山風…晴れて…」となる、 亀嶋なら「遊魚」ですから「かずかず遊ぶうろくず(魚)は…」となると言った具合です。

 読解文

P1

須佐の入江に舟とめて見渡せバ
海越の山風わたる鶴崎の はれて
見る目ハ千代のとも 萬代かけて
の かず/\あそぶうろくずハ もみ
しのにしき さらすかと 夕日かヽやく
玉嶋に つらぬきかけて降雨の とま
屋のしづくしめやかに げに平嶋の夜の
雨 晴れ間にしろき中嶋の 浪のうきねの
泊り船 寝覚に声の聞ホゆるハ
高音(峯)をつれて大越
の 浜辺に宿る
かり金の なこり小嶋
(雄島)の小夜千鳥(千代之かわり)なか
うき妻を松嶋の、千代のかけさす春
海や よせてハかへる白浪の (二上り)夜るべ
ニ御免んあま
かし(尼ヶ地蜑地)の 磯部にかへる釣り
小船 尼のまてかた
(蟶潟)秋ぞとて いとま


P2

なくても月や見む はるかにひヽく
入相のみつの林(瑞の林)の鐘の声 花やちる
かと笠松の 雪も積りて払ハねと 夕へ
そおそき光りをや  あをぐも侭(尽)ぬ
御代そ目出度き


 凡 例
旧漢字、旧仮名使い、俗字、異体字、略字、宛字、などの表記は出来るだけ原典に忠実に読解する。但し、活字が無い場合(異体字など)には当用漢字を充てる。
不審個所(読解の正誤不明の文字)は朱書する。
推読個所(虫損、脱字、行落ち、ほか)は□で囲む。必要に応じ脚註を付け説明する。
誤字はルビで正字を示し、必要に応じて脚註を付け説明する。衍字は衍字とルビ。
合字(より、トキ、トモ、シテ(〆)など)・女筆(まいらせ候など)はヨミの通り平仮名又は片仮名表記する。
変体仮名(越、者、可、尓など)は 「を、は、か、に」と表記する。
小文字の助詞(者、江、与、茂、而、之など)は「は、え、と、も、て、の」と表記する(右寄せの小文字表記はしない)
連続する固有名詞の間には「・」を打つ
返り点は採用しない。代わりに読みにくい個所にはルビでヨミを付ける。
次の様な場合はその該当個所を「 」で囲み、本文ではないことを示す。朱書(筆)、後筆、異筆、付箋、貼り紙、 封紙上書き、端書、端裏書、裏書など。
花押は「花押」、印章は「印」と表記する。
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